(畑中さんが番組中にお話しされた『男色大鑑』「思ひの焼付けは火打石売り」は、この本に収録されている。お買い求めは文学通信『男色大鑑』特設サイトよりぜひ。https://bungaku-report.com/blog/2018/07/post-235.html)
7月2日(金)は若衆文化研究会にとって、またまた歴史的な一日となりました。午後10時からNHKのEテレ「思考ガチャ」に、我らが畑中千晶さんが登場されて、『男色大鑑』を熱く語り、視聴者の心を鷲づかみにされました。
今回の番組のテーマは「「推し」にすべてをささげてしまうのはナゼ?」。
畑中さんは、『男色大鑑』「思ひの焼付けは火打石売り」に登場する歌舞伎若衆・玉川千之丞と尾張三木(さんぼく)との関係を使って説明されました。
では、そのお話とは・・・。
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その昔、江戸時代が始まって50年ほどたった折のことでした。
京都に玉川千之丞という若女方(わかおんながた)の役者が居り、絶大なる人気を博しておりました。
とくに客あしらいが上手く、この若衆に惚れ込むあまり、寺の竹木まで売り払った僧侶、横領にまで手をそめる商人が出る始末・・・。
そんなある日、千之丞はとある男の噂を聞きます。その男とは、尾張出身の伊達者で、千之丞が若女方になりたての時から深い関係になったものの、その後ふっと姿を消した人のことでした。
この者は、河原を寝床とし、川石を火打石として売ってのその日暮らし。そんな身になっても千之丞のことは忘れられずか『玉川心淵集』(千之丞に溺れて淵に沈んだという意味)なる本まで著していました。
「五条の橋の近くで浅ましい姿になっている」
その話を聞くやいなや橋の下まで探しに行った千之丞は、
「尾張の三木さまーー」
と呼べど答えず。。。ようやく大勢の浅ましい寝姿の者どもの中から、三木を探し当てます。
なぜ名乗ってくださらないのですかと、涙をこぼしながらも語り合い、持参した酒などを酌み交わしたのでありました。
【と、ここで尾張ならぬ終わりならハッピーエンドなのですが、続きがあります】
白々と夜が明けるころ、芝居が果ててから必ずお迎えにきますと千之丞は三木と約束をしてその場を立ち去ります。
ところが、三木は、
「つまらぬ人が訪ねて来たので、私の楽しみの妨げになったじゃないか」
とそのまま行方知れずとなりました。
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出演者一同が、この結末に驚く中、畑中さんは三木の気持ちを「リアルな推しよりも、自分の頭の中にある抽象的な推しに捧げる気持ちが強かったのではないか」と説明しておられましたね。
その後、認知心理学者・森田先生の「から揚げ理論」が勃発して破顔一笑となりますが、それはともかく、畑中さんの説明は「推し」問題の本質をついているように思います。
つまり、現実の「推し」と頭の中の「推し」は、推しと推し´(ダッシュ)の関係ではなく、「R推し」と「M推し」(R=リアル、M=妄想)とも言うべき、別物だということですね。
そして、そのM推しは、その人の人生全体から生み出されたもので、R推しはその素材でしかないということです。その素材が我が物顔で「ほぉら会いたかったろう~」とスギちゃん風に現れれば、うっとおしい、しつこければ、ウザい!になってしまうわけですね。
ところが、人間は想像や妄想の中だけで生きては居られません。必ず、現実に引き戻されます。何でもありのM推しは常に自分に優しくて理想的で良いのだけれど、やはり飽きてくるんですね。そうすると、R推しがちょっと恋しくなってくる。それで戻ると、そこには、恥ずかしさや痛みを伴うけれど、ふるさとみたいな感覚があり、新たな発見があるわけです。そして、その発見がまた、M推しに新たな想像力を吹き込むことにもなる。
こうしたシーソーのような、連続する逆転現象こそが、推しの原動力だと私は思います。
恐らく、尾張の三木が落ちぶれた後、どこか遠くへ行かないで、五条橋のたもとで石などを拾っていたのは、時に、千之丞の噂を聞いたり、姿を見たりして、このシーソーを繰り返していたからじゃないでしょうか。
ところが、本当に来ちゃった(笑)。それはこのシーソーごと破壊しますね。
しかも、三木は落ちぶれながらも、その日暮らしをして「今賢人」などと呼ばれていたと言いますから、そこには覚悟と楽しみがあったはずです。それがもし、若衆の情にほだされたと噂されては「賢人」の名折れですね。
千之丞はそこに気付かなかったかなぁ、若衆としてはまだまだですねぇ。。。
とまあ、私の妄想も尽きませんが、とにかく、色んなことを考えさせる短編であることは間違いありません。
畑中さん、お疲れさま。そして、ありがとうございました。
なお、再放送は、7月11日(日)午後2:30、とのことです。
またNHKプラスでは、7月9日(金)午後10:29 までとのこと。
見逃された方はぜひ!
染谷智幸(若衆文化研究会)

